震卦:雷の届く距離と、手に残るもの
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震は六十四卦の第五十一卦で、上も下も震、雷が重なります。卦辞の「雷が来て恐れ、やがて笑う」、彖伝の「遠くを驚かし、近くを恐れさせる」、そして六つの爻辞が雷を置く距離から、雷の書き方を読みます。
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震卦の雷には、いつも距離がついています。来たところ、百里、隣の家。原文はもう一つのことにも目を向けます。雷の中で何を失い、手に何が残るか。
- 震は震の上に震を重ねた卦。各卦は陽爻一本の上に陰爻二本なので、卦全体で陽爻は初九と九四の二本だけ。説卦伝は「震は動く」、大象はこれを重なる雷と呼ぶ。
- 卦辞は先に「恐れる」、あとに「笑う」。彖伝は「恐れが福を招く」「あとに規則ができる」と読む。
- 卦辞と爻辞に「喪」の字が三度出る。匕と香り酒を落とさない、貝を失う、失うものがない。六つの爻辞は雷を、来たところ・九つの丘・隣と、さまざまな距離に置く。

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雷の上に雷:同じ卦が二つ
震は『周易』の第五十一卦で、上卦も下卦も震です。各卦は陽爻一本の上に陰爻二本が載る形なので、六本のうち陽爻は初九と九四の二本だけ。上下それぞれの卦の一番下にあります。説卦伝は震の一字を「動」とし、象は雷、人でいえば長男にあてます。
震と綜卦の艮:震を上下逆さにすると艮になり、雷(動く)の鏡像は山(止まる)です。
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読む前に知る四つの語
- 恐れおののく(虩虩)
- 卦辞の「雷が来て」に続く擬態語。彖伝はこの句を「恐れが福を招く」と解くので、「恐れ」そのものを指す。
- 笑い声(啞啞)
- 卦辞は「笑い語らう」と書き、彖伝はこれを「あとに規則ができる」と読む。
- 匕と香り酒(匕鬯)
- 匕は供え物をすくうさじ、鬯は祭りに使う香り酒。「喪わない」とは、どちらも手から落とさないこと。
- 重なる(洊)
- 続けて来ること。大象の「重なる雷」は、雷が一つ鳴った直後にまた鳴ること。
卦辞と彖伝:恐れ、笑い、百里
震の卦辞は「通る。雷が来て恐れおののき、やがて笑い語らう。雷は百里を驚かせるが、匕(さじ)も香り酒も落とさない」。彖伝はその初めの三句を一句ずつ繰り返し、各句のあとに一つずつ説明を置きます。
震は通る。「雷が来て恐れおののく」とは、恐れが福を招くということ。「笑い語らう」とは、あとに規則ができるということ。「百里を驚かす」とは、遠くを驚かし、近くを恐れさせるということ。出て行っては宗廟と社稷を守り、祭りの主となることができる。
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最初の「恐れが福を招く」は、恐れを先に置きます。二つ目の「あとに規則ができる」は、笑いをその後に置き、規則とは決まり、型のことです。三つ目には小さな区別があります。遠くの人は「驚き」、近くの人は「恐れる」。同じ雷でも、距離によって反応が違うのです。
彖伝は「匕と鬯を喪わない」だけを取り出して説明することはせず、最後に「祭りの主になる」と添えます。匕と鬯は祭りの道具なので、二つの句は同じ場面を指しています。雷がどれほど大きくても、祭りを主る人は何も落とさない。
大象:重なる雷、恐れて身を修め省みる
雷が重なる、これが震。君子はこれにならい、恐れ慎んで身を修め、自らを省みる。
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「洊」は重なること。雷のすぐあとにまた雷が来るので、息をつく間がありません。君子の行いは短い動詞の連なりで、恐れる、そして整える、そして調べる。
この「恐れ」は、卦辞の「虩虩」と並べて読むことができます。卦辞は(彖伝の解釈では)恐れが福を招くと言い、大象はそこに二つの行いを足します。恐れを、卦辞は行き着く先で語り、大象はそれをどう使うかで語っています。
六つの爻辞:雷はどこに落ち、何を失うか
六つの爻辞では、雷が落ちる場所がそれぞれ違い、どの爻も一つのことに目を向けます。その場所で、人の手に何が残っているか。
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初九は卦辞にいちばん近く、「雷が来て恐れおののき、のちに笑い語らう、吉」。卦辞より「のちに」にあたる一字が増え、末尾に判断の「吉」が加わっています。その小象は、彖伝の二つの説明をそのまま持ってきます。「恐れが福を招く、あとに規則ができる」。同じ二つの文が、卦辞・彖伝・初九・その小象と四度も出てきます。
六二の雷はもう危険を連れてきます。「雷が来て危うい」。貝を失い(「失う」の前の字の読みには、伝統的にいくつかの説があります)、人は九つの丘に登って避けます。「追わなくてよい、七日で戻る」。小象は卦の形で説明します。「剛に乗る」。六二は陰爻で、初九の陽爻のすぐ上に載っているからです。六三の「雷にぼんやり」は、伝統的には落ち着かない様子と読み、続いて「雷の中を行けば災いなし」。小象は「位がふさわしくない」で、陰爻でありながら第三位、つまり陽の位に立っているからです。
九四は上卦の震でただ一つの陽爻で、二つ目の雷の出だしにあたります。その爻辞はただ三字、「雷が泥にはまる」。小象の評は「まだ明るくない」です。
六五は「雷が往き来して危うい」が、「失うものはなく、すべき事がある」。小象は初めに「危うい中を行く」と言い、続けて「その事は真ん中にあり、大いに失うものはない」と添えます。上六で、雷は初めて自分の身に落ちません。「雷が自分の身ではなく隣に落ちる、咎めなし」。人はそれでも震え、きょろきょろと見回し、伝統的には恐れおののくさまと読みます。軽く出て行けば凶ですが、小象の結びは「隣を見て戒める」。隣に落ちた雷を見て、自分への戒めにするのです。
ここで「喪う」の字を数えてみます。卦辞に「匕と鬯を喪わない」、六二に「貝を失う」、六五に「失うものはない」。貝は七日後に戻ります。卦辞が手放さないものは、匕と鬯です。
艮・巽・蹇:震の隣の卦と、鼎のあとにある理由
艮は震を上下ひっくり返した卦で、これが震の綜卦にあたります(図は冒頭)。震は「動く」、艮は「止まる」で、雑卦伝は二つを一文にまとめます。震は起こり、艮は止まる。錯卦は巽です。互卦の蹇は、震の第二〜第四爻を下卦に、第三〜第五爻を上卦に組み直したものです。下は陰・陰・陽の艮、上は陰・陽・陰の坎になります。
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序卦伝が鼎の次に震を置く理由は、祭器を取り仕切るのは長男が一番だから、というものです。鼎が器なら、震はそれを預かる人。説卦伝では長男であり、彖伝の最後の句では「祭りの主」でもあります。震のあとは、物はいつまでも動き続けられず、止めなければならないので、艮が続くと序卦伝は言います。
読んだあとの疑問
震卦は雷の危険を言っているのですか。
字面は雷で、説卦伝も雷を震の象とします。ただ原文の重心は、雷を聞いた人がどうするかにあります。恐れる、笑う、逃げる、はまる、隣を見る。雷そのものの恐ろしさではありません。
「匕と鬯を喪わない」とはどういう意味ですか。
匕は供え物をすくうさじ、鬯は祭りに使う香り酒です。雷が百里を驚かせても、祭りを主る人はさじも酒も落としません。彖伝は一語ずつ解かず、最後に「祭主になる」と添えるだけです。
九四はなぜ三字しかないのですか。
卦の中で最も短い爻辞で、字面は雷が泥にはまる、小象の評は「まだ明るくない」です。原文はそれ以上書いていません。伝統的には動けない様子と読むのが一般的で、それ以外のことは補えません。
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