遯卦:遯の尾からゆたかな退きへ
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遯(とん)は六十四卦の第三十三卦で、上が乾、下が艮、下から陰爻が二本伸びていきます。彖伝の「時とともに行く」、大象の「小人を遠ざけ、憎まず、きびしくする」、六つの爻辞で退きの言い方が変わっていく様子から、「退く」を読みます。
要点を先に約6分で読めます
六つの爻辞で、退きの言い方が変わっていきます。尾、捕らえる、縛る、好む、よい、ゆたか。原文はこの語の列で、同じ一つの退きが六つの位置で見せる違いを書きます。
- 遯は乾(天)の下に艮(山)を重ねた卦で、いちばん下の二本が陰爻。彖伝の「小さなものがじわじわ伸びる」は、この二本が上へ伸びていくことに合う。
- 彖伝は、退くことで通ると言い、続けて時とともに行くと言う。大象はこれを行いに落とし、遠ざけるが憎まず、自分はきびしくあること。
- 前の三つの爻は引き止められる姿(尾・捕らえる・縛る)、後の三つはゆとりのある姿(好む・よい・ゆたか)。小象の最後の評は「疑うところがない」。

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天の下に山:上が乾、下が艮
遯は、乾(天)が上、艮(山)が下に組み合わさった卦です。説卦伝は乾に「力強い」、艮に「止まる」の一字を与えます。下から数えると、初めの二本が陰爻、あとの四本が陽爻で、足元に二本の陰爻があり、その上に四本の陽爻が立つ形です。
遯と綜卦の大壮:綜卦は全体を上下逆にしたもので、遯のいちばん下の二本の陰爻は、大壮ではいちばん上に来ます。
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最初に押さえる三つの語
- 遯
- 『周易』の原文は「遯(とん)」と書く。序卦伝が直接に説明していて、遯とは退くこと。
- 小
- 卦辞「小利貞」の「小」。彖伝はこれに「じわじわ伸びる」と続ける。伝統的には、伸びていくほうを指すと読み、卦の形ではいちばん下の二本の陰爻にあたる。
- 時
- 彖伝は最後に「遯の時の意義は大きい」と感嘆する。重点は「時」にあり、いつ退くかが退きの意味を決める。
卦辞と彖伝:退くから通る、時とともに行く
遯の卦辞はとても短く、「通る。小さなことには正しさを守るのがよい」。二句とも断語だけで、主語も目的語もありません。彖伝は一句ずつ補っていきます。
「遯、通る」とは、退くことで通るということだ。剛が正しい位置にいて応じ、時とともに行く。「小さなことには正しさを守るのがよい」とは、小さなものがじわじわ伸びていくということだ。遯の時の意義は大きいことよ。
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「退くことで通る」とは率直な言い方で、通すのは退くことそのものです。「剛が正しい位置にいて応じる」は、卦の形で確かめられます。九五は陽爻で第五位(陽の位)にあり、その下の六二は陰爻で第二位(陰の位)にあって、陽と陰が応じ合います。「時とともに行く」は、これをすべて時機の話に置き直します。退きは、時機に合わせてするものです。
最後の二句は対照です。「小さなものがじわじわ伸びる」は、下の二本の陰爻が上へ伸びていくこと。続く「遯の時の意義は大きい」の「時」が具体的にいつかは彖伝に書かれていませんが、「伸びていく」のすぐ後に読むと、陰爻が伸びていく時が思い浮かびます。
大象:遠ざけ、憎まず、きびしく
遯の大象には三つの語があります。遠ざける、憎まない、きびしい。
天の下に山がある、これが遯。君子はこれにならい、小人を遠ざけるが、憎まず、きびしくする。
「天の下に山がある」、山は天の下にあります。伝統的には、次のように理解されます。山がどれほど高くても天はその上にあり、さらに高く遠ざかっていくので、山は追いつけない。それが遯の姿です。君子はここから「小人を遠ざける」という行いを得ます。
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最初の「遠ざける」は行いで、あとの二つがそれに条件をつけます。憎まないとは悪意を持たないこと、きびしいとは自分が威厳を保つこと。三つを合わせて読むと、遠くへ離れても、誰とも決裂せず、気も緩めない、という姿になります。
六つの爻辞:退きの姿がずっと変わる
六つの爻辞のうち五つに「遯」の字が出てきます(尾、縛る、好む、よい、ゆたか)。六二だけは「遯」がなく、黄牛の革で捕らえることが書かれています。
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初六は一番下です。「遯の尾」は、退く列のいちばん後ろ。爻辞はそれを危ういと言い、「行くところがあっても動いてはならない」と添えます。小象の評が印象的です。行かなければ、どんな災いがあろうか。六二は「黄牛の革でしっかり捕らえる。解ける者はいない」。小象は「志を固くする」とだけ言います。九三の「縛られた遯」は、病があり危うい。続く「召使いを養うのは吉」に、小象は「大きな事はできない」と付け足します。
九四で語が変わります。「好む遯」、伝統的には喜んで退くと読み、君子には吉、小人にはできない。九五は「よい遯」で、守って吉、小象は「志を正しくする」。上九は「ゆたかな遯」、ゆたかとは余裕があること。利しからざるはなく、小象は「疑うところがない」で結びます。
二本の陰爻は一番下にあります。そのすぐ上の三つの爻は、どれも引き止められた退きを書きます。尾、牛の革、縛り。離れた上の三つは、好む、よい、ゆたか。こう読むこともできます。陰が伸びていくところに近いほど抜け出しにくく、上へ行くほど退きは楽になる。
大壮・臨・姤:遯の隣の卦と、恒の次にある理由
遯を上下逆にすると大壮になります。だから遯の綜卦は大壮です(上の図)。錯卦は臨、互卦は姤です。遯の第二から第四の爻は陰・陽・陽(巽)、第三から第五の爻は陽が三本(乾)で、下が巽、上が乾に重なり、いちばん下の一本だけが陰になります。
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序卦伝は遯を恒の次に置き、理由をこう述べます。
物は同じ場所にずっと居ることはできない。だから次は遯、遯とは退くことである。
遯の次は大壮で、序卦伝の理由は、退きは果てしなく続けられないから、ということです。二つは互いの綜卦で、一方は下から陰爻が伸び、一方は下から陽爻が伸びる、その二つが前後に並んでいます。
読んだあとの疑問
遯卦は、逃げろという意味ですか。
序卦伝は卦名を「退く」と説明しますが、彖伝は退きを失敗とは見ず、退くことで通ると言います。大象の行いにも節度があり、遠ざけても憎まず、自分の姿勢は崩しません。
「君子は好んで退き、小人はそうでない」はどう読みますか。
九四の一つの爻に限った評語です。君子は喜んで退いて吉、小人にはそれができない。伝統的には、頭の字を「喜んで」と読むのが一般的です。この爻の中だけで成り立つ言い方で、人を種類に分けるものではありません。
遯と大壮はどういう関係ですか。
互いに綜卦です。遯を上下逆にすると大壮になります。遯は下に陰爻が二本、大壮は下に陽爻が四本で、序卦伝はこの二つを前後に並べています。
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