恒卦:雷風相与、方向を変えない
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恒は六十四卦の第三十二卦で、上が震(雷)、下が巽(風)。卦辞の「行くところがあるのによい」、彖伝の「終わればまた始まる」、大象の「立って方向を変えない」から、六つの爻辞が示す恒の求め方のずれまで、「久しさ」の考え方を読みます。
要点を先に約7分で読めます
恒の名は「久しい」ですが、卦の象は八卦のなかで特に落ち着かない雷と風です。原文は「終わればまた始まる」と「立って方向を変えない」で答えます。久しさとは一区切りずつ続くこと、変えないのは方向です。
- 恒は震(雷)の下に巽(風)を重ねた卦。彖伝は「剛が上、柔が下」「入って動く」「剛柔みな応じる」を挙げ、三組の爻の位置はたしかにどれも陰と陽の組になっている。
- 彖伝は日月・四季・聖人で「久しさ」を説明し、変化のなかで続くとはっきり言うのは四季だけ。卦辞の最後の句「行くところがあるのによい」は、「終わればまた始まる」と説明される。
- 大象が変えないとしたのは動きでなく方向。爻辞では、深く掘りすぎる・徳が定まらない・居るべきでない場所に居る・揺さぶる、が恒の求め方のずれとして並ぶ。

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雷が上、風が下:落ち着かない二つのもの
恒は、上に震(雷)、下に巽(風)を重ねた卦です。説卦伝は三爻の卦にそれぞれ一字を与え、震は「動く」、巽は「入る」と言います。さらに、万物を動かすのに雷より速いものはなく、万物をたわめるのに風より速いものはない、と述べ、最後に「雷と風は互いに逆らわない」と添えます。
恒と綜卦の咸:綜卦は全体を上下逆にしたもので、震は上下逆になって艮に、巽は兌になり、咸が得られます。
「続く」を意味する卦の象に、八卦のなかでも特に落ち着かない二つが選ばれている。これがこの卦を読む最初の手がかりです。ここでの恒は静止ではなく、止むことのない二種類の動きのあいだで、まとまりを保つことです。
彖伝は卦の形から三つのことを数えます。「剛が上で柔が下」「入って動く」「剛柔みな応じる」。三つ目はそのまま確かめられます。初と四、二と五、三と上の三組は、どれも陰と陽の組です。
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彖伝の三つの言い方
- 剛が上で柔が下
- 震は陽の爻が一本、巽は陰の爻が一本だけ。伝統的にはこの少数の爻で剛柔を決めるので、剛の震が上、柔の巽が下になる。
- 入って動く
- 下卦の「入る」と上卦の「動く」を一つの「て」でつなぐ。入りながら、動く。
- 剛柔みな応じる
- 三組とも陽と陰の組なので「みな」と言う。
卦辞と彖伝:変わることで長く続く
恒の卦辞は「通る。咎めはない。正しさを守るのによい。行くところがあるのによい」。最後の句は少し意外です。「久しい」という名の卦が、行き先があるのはよいと言い切るのですから。彖伝はまず卦名を「恒とは久しいことだ」と説明し、続けて、久しさがどう成り立つかを例で答えます。
日月は天に拠って、長く照らすことができる。四季は移り変わって、長く物を成し遂げる。聖人はその道に長くとどまって、天下は教化され整う。
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四季は絶えず変わるのに、「長く成し遂げる」と言われます。一つの季節が終われば、次の季節が引き継ぐからです。彖伝が「行くところがあるのによい」を説明するのもこの意味で、終わりに着けば、また始まりがある。こう読むと、原文の久しさは続いていくことであって、その場にとどまることではありません。
彖伝の結びは方法の一言です。続いているものを見れば、天地万物のありさまが分かる。
大象:立って変えないのは方向
恒の大象は一文だけです。
雷と風、これが恒。君子はこれにならい、立って方向を変えない。
「立つ」はしっかり立つこと。「変える」の字は『周易』の「易」と同じ字で、「方向」と訳した字は、場所ややり方も指せます。雷も風も止まらない動きなのに、君子には「立つ」ことが求められる。変えてはならないのは、動きでも静止でもなく、方向です。
雷と風を上下入れ替えると風雷益になり、これは恒の錯卦です。益の大象は逆の側に落ちます。善いものを見たらそちらへ移り、過ちがあれば改める。
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並べて読むと、それぞれ向かう先が違います。益の移る・改めるは具体的な善や過ちに向き、恒の変えないは方向に向いています。
六つの爻辞:恒の求め方がずれる話が多い
恒の六つの爻辞のうち、恒が働くさまを正面から書くのは、九二の「悔いが消える」と六五の「その徳を恒にする」だけです。残りの四つは、恒の求め方がずれた姿を書いています。
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初六は一番下です。「浚」は掘り下げること、「深く掘って恒を求める」は、始めから恒を深く掘ろうとすることです。小象は凶の理由を「始めから深さを求めるから」と説明します。九二は「悔いが消える」の短い一句で、小象は理由を「中にいて長く保てるから」とします。下卦の中ほどに立つので、続けられるのです。
九三は「徳を恒にしない」、小象は「受け入れてくれる場所がない」と評します。九四の「狩りをしても獲物がいない」には、小象が「長く居る場所が、自分の場所ではない」という理由を与えます。九四は陽の爻で、第四位、つまり陰の位に座っているので、この評と合っています。
六五の「その徳を恒にする」は、恒を正面から書いた句ですが、続いて立場で吉凶を分けます。女性には吉、男性には凶。小象は、女性は一つに従って最後までいくから吉、男性は物事の道理を自分で決める立場なので、ただ従うなら凶、と説明します。同じ「一つに従う」でも、立場が違えば評価が変わります。
上六の「揺さぶって恒を求める」は、爻辞では「震」の字を使い、「振」とする本もあります。小象は「振」です。振は揺り動かすこと。この爻はちょうど上卦の震の頂に座っています。小象の評は「大いに功がない」です。
咸・益・夬:恒の隣の卦と序卦での位置
恒を上下逆さにすると咸になります。だから恒の綜卦は咸で(上の図)、二つの卦は対をなします。序卦伝は、夫婦の道は久しくなくてはならないので、次は恒だ、と述べます。雑卦伝はこの一対に一字ずつ与え、咸は速く、恒は久しい、と言います。
錯卦は先に触れた益です。互卦は夬です。恒の第二から第四の爻は陽が三本(乾)、第三から第五の爻は陽・陽・陰(兌)で、下が乾、上が兌に重なります。
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序卦伝は恒の次に遁を置き、理由は、物は同じ場所にずっと居られないからで、遁とは退くことです。「久しい」から「退く」への移りが、そのまま次の一篇の出発点です。遁
読んだあとの疑問
恒卦は、何も変えるなという教えですか。
原文の「久しい」は、一区切りが次へ続いていくことです。四季は絶えず変わるのに「長く成し遂げる」と言われ、卦辞も行くところがあるのはよいと明言します。動かさないのは、大象の言う「方向」だけです。
恒卦と咸卦はどういう関係ですか。
互いに綜卦です。恒の六本の爻を上下逆にすると咸になります。六十四卦の順では咸が先で、恒がすぐ後に続きます。
「女性は吉、男性は凶」は、男女の運命を断じているのですか。
六五という一つの爻辞です。小象は、女性は一つに従って最後までいくから吉、男性は物事の道理を決める立場なのにただ従えば凶、と説明します。古い文章の中の立場に対する評語で、その時代の文脈で読むものです。今日の誰かへの断定ではありません。
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