損卦:二つの簋、三人、損せず益す
コンテンツ版 · · 資料・出典
損は六十四卦の第四十一卦で、上が艮(山)、下が兌(沢)、山の下に沢があります。卦辞の「二つの簋」、彖伝の「下を損して上を益す」、爻辞に出る数と、「益」を言う三つの爻から、「減らす」の書かれ方を読みます。
要点を先に約6分で読めます
損卦はずっと数えています。二つの簋、三人が行く、一人が行く、十朋の亀。数えるうちに、六つの爻辞のうち三つに「益」が出てきて、最後は「損せずこれを益す」で終わります。
- 損は艮(山)の下に兌(沢)を置いた卦。泰と比べると第三爻と上爻だけが入れ替わり、下卦は陽が一本減り上卦は一本増える。彖伝の「下を損して上を益す」に合う。
- 卦辞は自問自答で、「何を用いるか。二つの簋を祭りに用いてよい」。彖伝は簋にも時があると補う。大象は二つの動詞に二つの対象で、怒りを抑え、欲をふさぐ。
- 六三は「三人が行けば一人を損じ、一人が行けば友を得る」。九二・六五・上九の三つに「益」があり、上九は「損せずこれを益す」で結ぶ。

先に読む
山の下に沢:上は止まり、下は悦ぶ
損は、上卦が艮(山)、下卦が兌(沢)。説卦伝では、艮は「止」、兌は「説」(悦ぶ)。陽爻は最下の二つと最上の一つで、そのあいだに陰爻が三本続きます。
損と綜卦の益:上下逆にすると、損の上卦の艮は益の下卦の震になり、損の下卦の兌は益の上卦の巽になります。
図を拡大 · 横にスクロールして読む
三つの語:損・簋・孚
- 損
- 字面は減らすこと、失うこと。六十四卦の並びでは、解の次、益の前に来る。
- 簋
- 祭りで黍や稷を盛った古い器。卦辞の「二つの簋」は、その器が二つということ。
- 孚
- 卦辞の頭にある「有孚」。字面は誠があること。「大いに吉」「咎めなし」はそのあとに続く。
卦辞と彖伝:「二つの簋を用いてよい」、減らすにも時がある
損の卦辞は自問自答です。「誠があり、大いに吉。咎めなし、正しさを守ってよく、行く所があるのによい。何を用いるか。二つの簋を祭りに用いてよい」。問いは何を用いるか、答えは器が二つで足りるということです。
損とは、下を損して上を益し、その道は上へ行くことだ。……二つの簋にも時がある。剛を損して柔を益すにも時がある。損と益、満ちると虚ろ、時とともに進む。
「下を損して上を益す」は、卦の形で数えられます。損を泰(下が乾、上が坤)と並べると、違うのは第三爻と上爻だけです。泰の第三爻は陽で損では陰、泰の上爻は陰で損では陽。下卦は陽が一本減り、上卦は一本増えています。
図を拡大 · 横にスクロールして読む
彖伝の後半は、時に重心を置きます。「二つの簋にも時がある」、器が二つでも時機が要る。「剛を損して柔を益すにも時がある」、減らすことにも増すことにも時がある。最後の句は、損と益、満ちると虚ろを並べ、どれも時とともに進むと言います。
大象:怒りを抑え、欲をふさぐ
損の大象は、こうです。
山の下に沢がある、これが損。君子はこれにならい、怒りを抑え、欲をふさぐ。
「山の下に沢がある」は卦の形に沿った句です。君子の行いは二組に分かれ、抑えるは怒りに、ふさぐは欲に対応します。抑えるは行き過ぎないように押さえること、ふさぐは穴をふさいで通さないこと。怒りは腹立ち、欲はほしがる心です。
図を拡大 · 横にスクロールして読む
艮の「止」と兌の「説」も、この二語と並べて見られます。上卦は止まること、下卦は悦ぶことをつかさどり、大象の「抑える」「ふさぐ」はどちらも止めることで、止められるのは怒りと欲です。
六本の爻:数と、損の中の「益」
損の卦辞と爻辞には、数が何か所か出てきます。卦辞の「二つの簋」、六三の「三人」と「一人」、六五の「十朋」。
図を拡大 · 横にスクロールして読む
初九の「斟酌してこれを損す」は、斟酌して、量りながら減らすということです。爻辞の「祀事」を「已事」とする版があり、小象もその読みで、「事が済めば速やかに往く」と書いています。九二の「損せず益す」は、減らさずにむしろ加えること、小象は「中を志とする」と言います。
六三の数がいちばん率直です。「三人が行けば、一人を損じ、一人が行けば、その友を得る」。三人なら一人減り、一人なら一人の仲間が増える。小象の評は「一人が行く、三では疑いが生じる」だけ。数えると、三から一を引いて二、一に友を足しても二で、卦辞の「二つの簋」と同じ数です。
六四の「その病を損す」は、減らされるのが病で、「早く喜びを得る」、小象も「これも喜ばしい」と言います。六本のうち、減らすことを素直に喜んでよいと書いたのは、ここだけです。
もう一つの筋が「益」です。六つの爻辞のうち三つが触れています。九二の「損せず益す」、六五の「ある人が益す」、上九の「損せず益す」。減らすという名の卦の最後の爻辞が、減らさずに増やす話で、小象は「大いに志を得る」と言います。上九の最後の「臣を得て家なし」は、伝統的に読み方が分かれます。
咸・復・益:損の隣の卦
損を上下逆にすると益になるので、損の綜卦は益です(冒頭の図)。序卦伝の筋道はこうです。解は緩むこと、緩めば必ず失うから損が来る。損が止まらなければ必ず益に至るから益が来る。雑卦伝は、損と益をひとまとめにして一句だけ言います。盛衰のはじまり、と。
錯卦は咸で、損と同じ二つの三爻卦、艮と兌を使い、上下を入れ替えた形です。損は艮が上、兌が下で、咸は兌が上、艮が下。互卦は内側の爻を二組に分けて取ります。下の組(第二〜第四)は陽・陰・陰で震、上の組(第三〜第五)は陰ばかりで坤、震の上に坤を載せた形が復です。
図を拡大 · 横にスクロールして読む
読んだあとの疑問
損卦は、損をするほうがよいという意味ですか。
卦辞は「誠があれば、大いに吉」で始まり、「損」そのものを吉とも凶とも決めていません。彖伝は時に重心を置いていて、簋にも時があり、損も益も、満ちることも空になることも、時とともに進みます。
「簋」とは何ですか。なぜ二つなのですか。
簋は、祭りで黍や稷を盛る古い器です。原文は「二つの簋を祭りに用いてよい」と言うだけで、なぜ二つなのかは述べていません。彖伝が補うのは、簋にも時がある、ということです。
「ある人がこれを益す。十朋の亀も違えない」は、ほかの卦にもありますか。
あります。同じ一文が益の六二にも出てきます。一つは損に、一つは益にあり、二つの卦は互いに綜卦です。「朋」は、貝を貨幣としていた古い時代の数え方です。
この記事は役に立ちましたか?
資料・出典
続けて読む
解卦:雷雨が起こり、「来れば吉」から「公が隼を射る」まで ↗


