益卦:上から下へ、そして一つの「或」
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益は六十四卦の第四十二卦で、上が巽(風)、下が震(雷)。彖伝の「上を損して下を益す」、大象の「善を見れば移り、過ちがあれば改める」、そして小象が二度書く「外から来る」から、「増す」の書かれ方を読みます。
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益卦の増すものは、下へ向かって流れます。上は少し減り、下は少し増える。ところが同じ「或」の字が、六二では益を贈り、上九では撃ちに来て、小象はこの二つに同じ評を付けます。外から来る、と。
- 益は巽(風)の下に震(雷)を置いた卦。否と比べると第一爻と第四爻だけが入れ替わり、上卦は陽が一本減り下卦は一本増える。彖伝の「上を損して下を益す」に合う。
- 彖伝は「動いて入り、日に進んで限りなし」と言い、「大川を渡るによし」を「木の道が行く」へつなぐ。大象は二つに分かれ、善を見れば移り、過ちがあれば改める。
- 小象は、贈られる六二も撃たれる上九も「外から来る」と評す。隣り合う六三と六四は中を行って公に告げ、九五は「恵」を二度言う。

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風が上、雷が下:入ると動く
益は、上卦が巽(風)、下卦が震(雷)です。説卦伝で、巽は「入る」、震は「動く」。さらに、この二つを並べて言う一句があります。「雷と風はぶつかり合う」。爻の形では、陽爻は第一位と第五・第六位にあり、残る三つの位は陰爻です。
益と綜卦の損:上下逆にすると、益の上卦の巽は損の下卦の兌になり、益の下卦の震は損の上卦の艮になります。
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三つの語:益・限りなし・木の道
- 益
- 字面は増すこと。彖伝は冒頭で、上を損して下を益す、と定義する。
- 限りなし・定まりなし
- 彖伝に続けて出る「ない」の語。民は悦んで限りなし、日に進んで限りなし、その益は定まる所なし。境がなく、決まった行き先もない。
- 木の道
- 「大川を渡るによし」のあとに、彖伝は「木の道が行く」と言う。説卦伝で巽は木で、伝統的には舟が水の上を行くことと読まれる。
卦辞と彖伝:上を損して下を益す
益の卦辞は二句だけです。「行く所があるのによい。大川を渡るのによい」。彖伝はまず、益がどちらへ向かって流れるかを言い、それから二句を説明します。
益とは、上を損して下を益し、民は悦んで限りなく、上から下へ降り、その道は大いに光る。「行く所があるのによい」とは、中正で慶びがあるということ。「大川を渡るのによい」とは、木の道が行くということ。益は動いて入り、日に進んで限りない。天が施し地が生み、その益は定まる所がない。およそ益の道は、時とともに行く。
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「上を損して下を益す」は、卦の形で確かめられます。否(下が坤、上が乾)と比べると、益は第一爻が陰から陽へ、第四爻が陽から陰へ変わっています。上卦は陽が一本減り、下卦は一本増えました。「上から下へ降る」とは、益が上卦から下卦へ移ることです。
「中正で慶びがある」も、伝統的には卦の形に当てて読まれます。六二は第二位の陰爻、九五は第五位の陽爻で、それぞれ自分の卦の真ん中にあって位も正しく、陰と陽で応じ合います。「動いて入り」は、下の震が動き、上の巽が入ること。「日に進んで限りない」は、進みが止まないこと。「天が施し地が生み、その益は定まる所がない」は、天が与え、地が生み、益に決まった行き先がないということです。最後の一句は「時とともに行く」で結ばれ、損の彖伝を結ぶ四字と同じです。
大象:善を見れば移り、過ちがあれば改める
益の大象は次のとおりです。
風と雷、これが益。君子はこれにならい、善を見ればそちらへ移り、過ちがあれば改める。
「風と雷」は上下二つの卦の象で、この一句の中の象にあたります。君子の行いは二つに分かれ、どちらも条件と動作の組です。
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「移る」と「改める」は、向きの違いとして読めます。移るのは外へ向かって善に近づくこと、改めるのは内に向かって自分の過ちを直すこと。「移る」の字は爻辞にも現れます。六四に「国を移すのに頼るのによい」とあります。
六本の爻:同じ「或」、一度は与え、一度は撃つ
益卦の六つの爻辞は、増すことの行き来を、違う人に割り振っています。
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初九の「大事を起こすのによい」は、「大いに吉、咎めなし」と評されます。小象の「下は重い事を負わない」は、伝統的には、低い位にある者は重い事を担うべきでない、と読まれます。
六二と上九は、同じ「或」の字を使います。六二は「或いは益す」、ある人が益を与え、十朋の亀でさえ断れない(朋は、貝を貨幣としていた古い時代の数え方です)。小象は「外から来る」。上九は「益す者はなく、或いは撃つ」、誰も益さず、ある人が撃つ。小象の評も「外から来る」です。同じ「或」に同じ評。一度は与え、一度は撃つ。上九にはさらに「心の立て方が一定しない」とあり、そのあとに「凶」が来ます。
六三と六四は隣り合い、同じ語を使います。六三は「誠があり、中を行き、公に告げて圭を用いる」、六四は「中を行き、公に告げ、公が従う」。どちらも中を行き、どちらも公に告げます。六三で用いる圭は、玉でできた儀礼の器。六四では公が従い、小象は「志を益す」と言います。
九五は「誠があり、恵む心」と「わが徳を恵みとする」で、一つの爻に「恵」の字が二度出ます。まず心に恵みがあり、次に徳が恵みとして受け取られる。後ろの句は、伝統的には、人々が私の徳を恵みと見る、と読まれます。「問うなかれ、大いに吉」、小象の評は「志を大きく遂げる」です。
恒・剥・夬:益の隣の卦
益を上下逆にすると損になるので、益の綜卦は損です(冒頭の図)。錯卦は恒で、益の全爻を反対にすると現れます。恒は益と同じ二つの三爻卦、震と巽でできていますが、震が上、巽が下です。互卦は真ん中の四本を、重なる三本ずつで読みます。第二・三・四の爻は陰ばかりで坤、第三・四・五の爻は陰・陰・陽で艮。坤の上に艮を載せた形が剥です。
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序卦伝は益を損の後ろに置き、益の次は夬です。益してやまなければ必ず決壊するから、夬が益のあとに来ます。
読んだあとの疑問
益卦は、良いことばかりが書かれた卦ですか。
いいえ。上九は「益す者なく、或いはこれを撃つ。心の立て方が一定せず、凶」と書き、六三にも「凶事に益を用いる」とあります。卦辞は「行く所があるのによい」ですが、六つの爻辞には、益を受ける者も受けない者もいます。
「上を損して下を益す」は、上が損をするという意味ですか。
字面は、上卦が一本手放し、下卦が一本増えるということで、彖伝はすぐ「民は悦んで限りなし」「その道は大いに光る」と続けます。綜卦の損の「下を損して上を益す」とは正反対で、二つの卦は互いを上下逆にしたものです。
「大川を渡るによし」と「木の道」は、どうつながりますか。
説卦伝で巽は木です。伝統的には舟で水を渡ることと読まれますが、原文は詳しく述べていません。彖伝は、卦辞の川を渡る話を、巽の取象に結びつけているだけです。
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損卦:山の下に沢、「二つの簋を用いてよい」から「損せずこれを益す」まで ↗


