老子の版本:通行本と出土本
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『老子』には通行本、馬王堆帛書、竹簡があります。章の順序の対照、第38章の並べ読み、争いのある字句、書写と発見の時間のずれから違いを見て、解読が分かれる点を示します。
要点を先に約9分で読めます
『老子』は一種類ではありません。通行本は「道」から「徳」へ進み、馬王堆帛書はその逆で、郭店楚簡は一部だけを写しています。読む前に、手元の一冊がどれかを確かめます。
- 通行本は道経(第1〜37章)が先で徳経(第38〜81章)が後。馬王堆帛書の甲・乙本と北大漢簡はどれも徳篇が先で、北大漢簡は全77章です。
- 帛書乙本は第38章に「下徳」の句がなく、第39章に「万物」の項がなく、第37章は「道は常に無為」でなく「道は常に名なし」で始まります。違いの多くは句の有無と用字です。
- 郭店楚簡は最も早いが一部だけ、帛書は比較的そろうが欠字がある。「大器免成」のように読みが争われる箇所は分岐を示し、どちらが正しいとは決めません。

先に読む
一つの書物、三種類の資料
『老子』を読むとき、人は手元の本を、八十一章で「道」から始まり「徳」へ進む本だと思いがちです。実際には少なくとも三種類の資料があります。代々伝わった通行本、1973年に出土した馬王堆帛書、1993年以降に相次いで現れた竹簡です。章の順序、用字、分量はそれぞれ違います。
章順の図。帛書乙本の章番号は釈文が通行本に合わせて付けたもの、北大漢簡の章数は整理者の区切りによります。
図ではまず章の順序を見ます。通行本は道経が前(第1〜37章)で徳経が後(第38〜81章)。馬王堆帛書乙本は逆で徳経が前、北大漢簡も徳篇が前で、全部で77章しかありません。郭店楚簡は『老子』の一部だけを写したものなので、図には入れていません。
よく挙げられる四つの本
王弼本・河上公本
唐代以後にもっとも広く読まれた二つの注釈本。伝統的に八十一章で、道経三十七章、徳経四十四章。本シリーズは王弼本を引きます。
1973年 · 長沙
三号漢墓から二種の写本が出土し、甲本・乙本と呼ばれます。どちらも徳篇が前。乙本は全幅の帛に書かれ、徳・道の各篇の末尾に篇名と字数が記されています。
1993年 · 湖北省荊門
郭店一号楚墓から出土し、戦国中期ごろ。甲・乙・丙の三組に分かれ、今本の一部にしか当たらず、見積もりは三分の一から五分の二のあいだです。
2009年入蔵
北京大学が寄贈を受けた前漢の竹簡で、書写は前漢中期ごろ。『老子』は竹簡221枚、5300余字が残り、全77章で、徳篇が前です。
章の順序:徳が先か、道が先か
いちばん分かりやすい違いは全体の順序です。通行本は第1章から第81章まで進みます。馬王堆帛書乙本は第38章の「最上の徳は…」から始まり、第37章の「道は常に名がない」で終わります。
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章の中の文字は、おおむね一句ずつ対応させられます。変わるのは章と章の前後と、上下どちらの篇が先かです。帛書には区切りを示す点などの印がありますが、八十一章の形にはなっていません。釈文は比較のために、通行本の章に当たる番号を付けています。
最初の話題も違い、通行本は「道」と「名」から、帛書乙本は「徳」とそれを失うことから始まります。なぜ二つの順序があったのか、材料は語りません。『韓非子』の「解老」篇も最上の徳を説く章から始まることに注目する研究者もいますが、帛書の順序との関係は意見が分かれています。
第38章を並べて読む:一句少なく、助字が多い
同じ章の中では、違いはもっと細かくなります。第38章は最上の徳から礼まで下る話で、通行本は五段階、帛書乙本は四段階です。
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三種類の違い
「下徳」の句がない
通行本は「上徳」の後に、為して目的がある「下徳」の句がありますが、乙本にはなく、「上徳」の次がそのまま「上仁」です。
「薄」と「泊」、「始」と「首」
通行本は「忠信の薄」「愚の始」、乙本は「忠信の泊」「愚の首」と書き、「泊」はふつう「薄」と読みます。通行本で「腕をまくって引く」にあたる「扔」は、乙本では「乃」と書かれ、ふつう「扔」と読まれます。「あれを捨ててこれを取る」の「あれ」は、乙本では「罷」と書かれ、「彼」と読まれます。
増えた「也」
乙本は多くの句の末尾に助字の「也」を置き、「礼は忠信の泊也にして、乱の首也」のようになります。通行本にはこの「也」がありません。
乙本のこの行では、「義」の位置に釈文が「○」を置いています。甲本と乙本を合わせた校勘本は、これを「義」と読みます。欠けている「下徳」の句については、通行本があとから補ったのか、帛書が写し落としたのか、学者の判断が分かれており、材料そのものはどちらの味方もしません。
繰り返し論じられる字句
その先にも、よく論じられる違いがいくつかあります。多くは一句か一字の違いです。
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第39章の「一を得る」では、通行本は天・地・神・谷・万物・侯王を挙げますが、乙本に「万物」はなく、後ろの「崩れるのを恐れる」の句にもありません。第41章の末句は、通行本が「ただ道だけが、与えてなお成し遂げさせる」、乙本が「ただ道だけが、始めることに長け、成し遂げることにも長ける」です。「与える」と「始める」は意味が違い、学者の取り方も分かれます。
同じ章の「大器晩成」は、乙本では「大器免成」です。「免」の読みは一つではなく、「晩」と読めば通行本と同じ文になり、「無」に近い意味に読めば別の意味になります。もっともよく取り上げられる箇所の一つで、定まった結論はありません。
第25章の「王も大」は、乙本では「人も大」で、後ろは「王は一に居る」のままです。同じ章には「人は地にならう」もあります。取り方は人によって分かれます。第37章は、通行本が「道はつねに何もせず、しかも成し遂げないことはない」で始まるのに対し、乙本の冒頭は「道は常に名がない」です。この句は通行本の第48章にもありますが、乙本の対応箇所は欠字で、比べられません。
第1章の「つねに欲がなければその奥深さが見え、つねに欲があればその行き着く先が見える」という一節には、伝統的に、「無欲」「有欲」で切る読みと、「常無」「常有」で切って「欲」を後ろにつなぐ読みがあります。乙本は「無欲」「有欲」の後に助字の「也」があり、前者を支持する学者が少なくありません。通行本の側にも二つの読みの長い伝統があります。
まず分類する
句の有無、用字の違い、句読や読みの違いは、三つの別の事柄です。一つにまとめて語りません。
次に通仮字を調べる
帛書の字形は通仮字が多く、たとえば「泊」を「薄」、「罷」を「彼」と読みます。整理者の読みは、もとの書き方と並べて記録します。
最後に出どころを書く
版本・章・拠った整理本を書きます。欠字は四角で示し、自分で補いません。
竹簡と漢簡:より古く、より断片的
帛書のほかに、二つの竹簡があります。1993年に出土した郭店楚簡と、2009年に北京大学に入った前漢の竹書です。書写の時代と発見の時期は、同じ順序ではありません。帛書乙本は漢初の書写、甲本はそれより少し古いとされ、北大漢簡の書写は前漢中期ごろとされます。
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郭店楚簡は甲・乙・丙の三組に分かれ、章の順序も今本とは違います。同じ章の書き出しも、三つの本で書き方がもう違います。
第19章の書き出し
聖を絶ち
「聖を絶ち智を棄てれば、民の利は百倍になる。仁を絶ち義を棄てれば、民は孝と慈に立ち返る。巧みを絶ち利を棄てれば、盗賊はいなくなる。」(通行本第19章、原文からの訳)
聖を絶ち知を棄てる
通行本とほぼ同じで、「知」は「智」の意味に読みます。
智を絶ち弁を棄てる
「智を絶ち弁を棄てれば、民の利は百倍になる。巧みを絶ち利を棄てれば、盗賊はいなくなる。偽りを絶ち欺きを棄てれば、民は孝と慈に立ち返る。」釈文は研究者ごとに少し異なり、「欺き」を「慮り」とするものもあり、「孝慈」は簡の上では別の字で書かれて孝慈と読まれます。
これを手がかりに、『老子』と儒家倫理の関係を論じる研究者もいれば、簡は抜き書きにすぎず、写されていないことを、もとの本になかったと考えてはいけないと注意する研究者もいます。北大漢簡はまた別の事情で、整理者が全77章に分け、徳篇が四十四章、道篇が三十三章で、通行本の八十一章とは合いません。
この書の中心概念は道と徳を、「無為」が本ごとにどこにあるかは無為を、『老子』と『荘子』をどう並べて読むかは老荘の異同を参照してください。
読んだあとの疑問
私たちが読む『老子』は、なぜ「道」が先で「徳」が後なのですか。
通行本の編成がそうなっているからです。帛書と北大漢簡は徳が先で、早い時期にはもう一つの編成があったことが分かります。いつ、なぜ道が先になったかは、手元の材料に説明がなく、理由を作って補うべきではありません。
帛書乙本は通行本より古いので、原文に近いのですか。
古いことは、近いことを意味しません。書写の古さ、保存の完全さ、来歴の確かさは別々の問いです。乙本は漢初の写本で、釈文には欠字の四角が多く、通仮字も多く見えます。郭店楚簡はさらに古いものの抜き書きです。違いはまず記録し、それから比べます。
『老子』を引用するとき、何を記しておくべきですか。
版本(通行本・王弼本、帛書乙本、郭店簡甲組など)、章、そして拠った整理本や頁です。帛書の原物には「第何章」という番号がなく、釈文の章番号は通行本に合わせて付けられたものなので、「帛書第38章」と書くときはその点を断ります。
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